現代日本の大衆文化の源流は、明治末期から昭和初期までの先端メディアであった印刷物の中に見出すことができます。なかでも印刷技術の革新が進んだ大正時代(1912-1926)は出版界が興隆し、西洋の芸術やアール・ヌーヴォー、アール・デコの様式と日本の伝統を融合させた独特な美意識のデザインやイラストレーションが生み出されました。本展では、文学と美術、音楽などが混じりあう近代の書物と刷物を愛した山田俊幸氏の収集品から大正時代を中心とする約330点が紹介されます。大衆に忘れがたい記憶を残した儚く膨大なイメージ群―大正イマジュリィの世界を、藤島武二、杉浦非水、竹久夢二などの主要な作家たちと、時代を映すさまざまな意匠を切り口に掘り下げます。
ー 大正イマジュリィとは ー
イマジュリィ(imagerie)とはフランス語で、ある時代やジャンルに特徴的なイメージ群のことです。1900-30年代の日本には西洋から新しい複製技術が次々に到来し、雑誌や絵葉書、ポスター、写真などに新鮮で魅力的なイメージがあふれました。当時の活気に注目した研究者はこれらの大衆的複製物を「大正イマジュリィ」と総称し、2004年に学会を結成しました。
◆〈大正イマジュリィの作家たち〉 創造的な足跡を残した作家を クローズアップ
大正時代の出版文化に創造的な足跡を残した、藤島武二 (1867-1943)、杉浦非水(1876-1965)、橋口五葉(1881-1921)、竹久夢二(1884-1934)、高畠華宵(1888-1966)、岸田劉生(1891-1929)、古賀春江(1895-1933)、小林かいち(1896-1968)などの作家12名がとりあげられます。彼らは民主化の気運が高まった明治末期(1900年代)から戦時色が影を落とす昭和10年代までのあいだ、複製されて大勢の手元に届く出版物のデザインを通じて大衆のひとりひとりが主役になる新時代の明るさを印象づけました。同時に、個人が心の奥に抱く郷愁や憧憬、日々の繊細な感情、衝動、欲望も視覚化しました。それらは現在も私たちの心を捉える魅力を持っています。
(左)杉浦非水・装幀/菊池幽芳・著『お夏文代』 1915年 春陽堂 個人蔵
(右)橋口五葉・装幀/夏目漱石・著 寸珍『吾輩ハ猫デアル』 1911年初版/1919年57版 大倉書店 個人蔵
(左)竹久夢二・表紙絵『婦人グラフ』第2 巻第2号 1925年 国際情報社 個人蔵
(右)高畠華宵・口絵「初夏の風」『少女画報』18巻5号 1929年東京社 個人蔵
◆〈さまざまな意匠(イマジュリィ)〉テーマ別に、匿名の作者の仕事を含むイマジュリィを紹介
大正時代にはフランスの哲学者アンリ・ベルクソンによる、生命には創造的に進化する衝動(エラン・ヴィタ ル élan vital)が備わっている、*という思想が広まり、創造性が重んじられました。おりしも興隆した出版界において、青年たちは雑誌に文や絵を投稿し、自主出版で創意を世に問い、装幀や挿絵に自己を表現したのです。エラン・ヴィタルの視覚化から、浮世絵の再生、次世代を育む童画、耽美な怪奇美、都市の商業デザインまで、印刷にのせて人々の意識を変えたさまざまな意匠をたどります。 *アンリ・ベルクソン『創造的進化』1907年
(左)岡本帰一・挿画/野口雨情・詩「兎のダンス」『コドモノクニ』3巻5号 1924年 東京社 個人蔵
(右)装幀者不詳/フィリップ・ダニング、ジョージ・アボット著『世界大都会尖端ジャズ文学 JAZZ ブロドウェー』1930年 春陽堂 個人蔵
◆会期中のイベント
学芸員のギャラリートーク(自由参加)
本展担当学芸員が展覧会の見どころや出品作品について展示室で解説を行います。(展示フロアを移動しながらマイクを使用して説明します)
日時:7月18日(金)、7月25日(金)18:00-18:40
参加費:無料 ※ただし、本展への入場が必要です
参加方法:時間になりましたら5階展示室入口へお集まりください 。
ふぁみりー★で★とーく・あーと(要申込)
休館日に貸し切りの美術館で、ボランティアガイドと話しをしてみませんか? 作品解説を聞くのではなく、参加者が作品を見て、感じて、思うことを話しながら楽しむ参加型の作品鑑賞会です。(定員30 名)
日時:8月18日(月)9:30-11:30
参加費:1,500円(税込) ※高校生以下無料 *ご招待券、ご招待状、年間パスポート、割引等は適用できません
参加方法:web申込/7月11日(金)10:00より美術館ホームページにて受付開始
2025年7月12日(土)~8月31日(日)
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
・JR新宿駅西口から徒歩5分
・東京メトロ新宿駅から徒歩5分
・東京メトロ西新宿駅C13出口から徒歩6分
・西武新宿線西武新宿駅から徒歩7分
・大江戸線都庁前駅A1出口から徒歩7分
月曜日(ただし7月21日・8月11日は開館)、7月22日、8月12日
10:00~18:00(金曜日は20:00まで)※最終入館は閉館30分前まで
一般(26歳以上)/事前購入券1,400円(税込)、当日券1,500円(税込)
25歳以下/事前購入券1,000円(税込)、当日券1,100円(税込)高校生以下無料
※年齢は入場時点
SOMPO美術館、毎日新聞社
SOMPOホールディングス
損保ジャパン
大正イマジュリィ学会
山田俊幸氏(1947-2024)
近代文学から出版文化に興味を広げ収集・研究。大正イマジュリィ学会 の創立会員・役員を務め、自身の収集品を核に2010年「大正イマジュリィ の世界」展(渋谷区立松濤美術館)を開催。同展はその後も巡回。元・ 帝塚山学院大学教授、日本絵葉書会会長等。
新宿区、TOKYO MX
株式会社キュレイターズ
▽SOMPO美術館公式ホームページ
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル:美術館利用案内)
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